5分でわかるキングダム|第10章:黒羊丘の戦い編(41〜46巻)
国内の政敵を退け、王政がようやく安定を見せ始めた秦。
だが、中華統一の道はあくまで「戦」によって切り拓かれる。
次なる戦場は、魏との国境――「黒羊丘(こくようきゅう)」。
この戦の総大将に任じられたのは、あの男・桓騎(かんき)だった。
かつて山陽戦で異質な戦いぶりを見せた元野盗の将が、ここでも冷徹に指揮を執る。
桓騎軍は“常識外れ”の戦法を用いることで知られる。
正面衝突よりも奇襲、策謀、心理戦。
そして容赦ない報復。
そんな軍に、信率いる飛信隊が配属されることで、今戦は一層の緊張感を帯びる。
敵となるのは、趙の慶舎(けいしゃ)将軍。
彼は「本能型の戦術家」と呼ばれ、戦場の空気や気配から展開を読み解く力を持つ。
読み合い、裏の裏をかくような戦いに、信は何度も後手に回る。
それでも信は、何度も食らいついていく。
仲間との連携、実戦の中で得た感覚、そして王騎の矛。
すべてを武器に変えて、飛信隊は戦況を動かす役割を果たしていく。
桓騎のやり方には、信は最後まで馴染めなかった。
味方の兵が囮にされ、敵の捕虜が虐殺される光景――
それが“勝つため”だとしても、信には納得できなかった。
だが桓騎は言う。
「勝てばいい。それ以上に意味があるのか?」
信は、その問いに答えることができなかった。
戦場で勝つことと、人としての在り方――
そのどちらを選ぶのかを、彼はまだ決められずにいた。
戦の終盤、飛信隊は慶舎の本陣を突く。
「感覚で動く者には、感覚で挑む」
信は、あえて戦術を捨て、“本能”でぶつかっていく。
結果、慶舎を討ち取ることに成功し、黒羊丘の戦いは秦の勝利に終わる。
この戦で信は、三千人将としての初めての大戦果を挙げた。
だが勝利の味は、決して甘くはなかった。
桓騎の非情さ、仲間の喪失、理不尽に引き裂かれた村――
信は、自分がこれから進む「戦の道」を、重く考えるようになる。
「勝つだけでは、王騎の矛を継げない」
そう気づいた信の胸には、迷いと覚悟が入り混じる。
黒羊丘編は、ただの戦闘ではなく、“戦う意味”を深く突きつけてくる章。
信が将として、人として揺れながらも一歩進む、苦くも重要な戦いだった。