5分でわかるキングダム|第16章:李牧包囲網編(番吾の戦い・王翦の危機)
宜安攻略戦は囮だった。李牧が本当に狙っていたのは、秦軍総大将・王翦を討ち取ること。舞台は宜安から南西、番吾(ばんご)。秦軍が気づいたときにはすでに手遅れで、王翦軍は李牧の描いた巨大な包囲網に、じわじわと飲み込まれていく。
ここで震えるのは、李牧の緻密すぎる戦略。数年前から進めていた“番吾の改造”によって、あの土地はすでに軍事拠点として完璧に整備されていた。そして李牧は、秦軍が宜安に目を奪われている隙に、桓騎を討った精鋭を再配置。信や蒙恬たちが援軍として駆けつける頃には、王翦軍はすでに完全包囲されていた。
しかも今回は、“戦って勝つ”ではなく、“逃がさず全滅させる”が李牧の目的。それだけに、秦軍の動きに合わせて完璧に蓋をしてくる。この緊迫感は、これまでのキングダムでもトップクラス。王翦ですら、もはや打つ手がないように見えてしまうのが恐ろしい。いつもは冷静な彼が、どこか焦っているようにも見える描写が続く。
一方で、信たちはまだこの状況を“信じきれていない”。「王翦将軍ならなんとかする」「まだ間に合う」と自分たちを鼓舞しながら進軍を急ぐけれど、読者はわかってしまう。この戦は、すでに“詰み”に近い。李牧の包囲網は想像以上に広く、深く、逃げ道がない。
さらに絶望感を加速させるのが、秦国本土の“動けなさ”だ。蒙武軍や昌平君が動けば戦局は変わるかもしれない。だが、今の秦には余力がない。中央軍が動けば他国にスキが生まれ、政の体制にも影響が出てしまう。つまり、王翦軍を見捨てるか、国家全体が危機に陥るか――その二択が突きつけられている。
この章は、「戦術の天才vs戦術の天才」という構図なのに、なぜかここまで来て“王翦が全然動けない”ことが異様だ。これまで散々、“戦う前に勝ちを作る”といわれてきた男が、ここでは完全に後手。そしてそれが、ただの判断ミスじゃなく“李牧が勝つためだけに長年かけて準備した罠”だというのが恐ろしい。王翦の天才性すら、最初から計算に入っていたのかとすら思わせる構図だ。
でも、ここで終わらないのがキングダム。信が、蒙恬が、番吾に向かって走り続ける。追いつける保証なんてないのに、「信じてるから」「ここで終わらせないために」全力で走る。彼らの必死な顔を見るたびに、読者もまた「まだ希望はある」と思わされてしまう。
ラストで描かれた王翦の“策”が、わずかな可能性として残る。でもそれすら、李牧がどう動くかによって無に帰すかもしれない。そして、李牧のそばにはあの司馬尚の姿が――。
いま、戦国最大の天才たちが、本気で命を奪い合っている。
結末はまだ見えない。ただひとつ言えるのは、ここから先は、誰が死んでもおかしくないということだ。