5分でわかるキングダム|第4章:馬陽防衛戦編(11〜16巻)
戦場に立つとは、命を懸けるということ――
信がその意味を本当の意味で知ったのは、この馬陽の地だった。
秦西部の要衝・馬陽が、趙の大軍に狙われた。
前線に立ったのは、信。そして総大将は、かの怪鳥・王騎将軍。
戦いを仕掛けてきたのは、秦王・政の命をかつて狙った武神・龐煖。そして彼の背後には、まだ名も知れぬ一人の若き軍師がいた。
李牧――
この男こそが、後の秦最大の敵となる天才戦略家である。
馬陽の戦いは、表面上は龐煖との肉弾戦だが、その裏では李牧が趙軍の全体を操っていた。この時点では中華の表舞台には出てきておらず無名の武将だったが、王騎だけは彼の“得体の知れなさ”を見抜いていた。
「今この戦を仕掛けてきた者は、非常に恐ろしい相手です」
王騎の読みは、当たっていた。
戦は激しさを増し、王騎の戦術と士気が秦軍を押し上げていく。
信も副官として初めて軍を率い、「将軍の背中」に喰らいつくように戦場を走った。
麃公、蒙武といった将たちも登場し、趙軍を追い詰めるかに見えたその時――
龐煖が突撃する。まさに“戦の怪物”だった。
王騎は全軍の動きを止め、ただ一人でその刃を受け止めた。
しかし、李牧が動く。龐煖は囮であり、本当の狙いは王騎を包囲し討つことだった。
矛と矛がぶつかり合い、死の空気が戦場を覆う中、
王騎は――退かない。
「その矛は、あなたに預けましょう」
王騎の最期は、あまりにも美しく、静かだった。
言葉ではなく、行動とまなざしで信に未来を託す。
渡された巨大な矛。それは重く、冷たく、けれど確かに“意志”がこもっていた。
そのとき信は、夢である「天下の大将軍」に、初めて“現実の重さ”を感じた。
命を懸けて戦う者が遺す意志の連鎖――
それを継ぐ者にしか見えない風景が、信の目に映り始めていた。
そして、李牧の名が密かに残った。
馬陽の地で初めて出会った“もう一人の怪物”が、これから何度も信たちの前に立ちはだかることになる。
馬陽防衛戦は、王騎の終わりであり、信の出発点であり、そして李牧という“時代の伏兵”が初めて歴史に姿を現した、キングダム屈指の転機だった。