5分でわかるキングダム|第6章:合従軍侵攻編(25〜33巻)
戦の時代、中華を統べんとする野心を抱く国は、決して一つではない。
山陽の勝利で勢いづいた秦に対し、ついに周囲の五カ国が手を取り合う――
これが「合従軍」。中華史上最大級の同盟軍であり、秦という国そのものが滅ぶ可能性すらあった戦いが、ここに始まる。
この戦を仕掛けたのは、若き軍師・李牧と、楚の宰相・春申君。
両者の手腕により、楚・趙・魏・燕・韓の五カ国が秦を包囲するかたちで一斉に侵攻を開始。
かろうじて外交で斉を中立に引き留めたものの、秦は未曾有の危機にさらされる。
まず狙われたのは、東の要衝「函谷関」。
敵は総勢50万以上、対する秦は守備兵も合わせて10万強。
文字通りの総力戦であり、ここを抜かれれば、都・咸陽までは一本道だった。
開戦の号砲とともに、各方面で戦火が広がる。
楚軍の巨体将軍・汗明は正面突破を狙い、魏の呉鳳明は投石器を率いて門壁を破壊にかかる。
趙の李牧は冷静に後方から指揮をとり、燕のオルドは山越えによる奇襲を仕掛ける。
どこを見ても、練り上げられた攻勢。
その全てに対応する秦軍は、圧倒的な兵力差の中で踏ん張り続けた。
そんな中、信は麃公将軍の副将として戦場に立つ。
信と飛信隊は、趙軍の副将・慶舎との戦いで激戦を繰り広げる。
「本能型」と呼ばれる慶舎の動きは読みにくく、戦術より直感が物を言う戦い。
信もまた、初陣とは比べ物にならない規模の戦の中で、自分なりの“嗅覚”を研ぎ澄ましていく。
そして桓騎が呉鳳明を押し返し、王翦がオルドの山越えを跳ね返し、
騰や蒙武が楚軍を止める中、合従軍は次第に焦り始める。
正攻法では函谷関は落ちない――その判断を下した李牧は、次なる一手に出る。
「本命は、咸陽だ」
李牧の別働隊は、函谷関の防衛線をすり抜け、都を直接狙う進軍を始める。
その道中にあるのが「蕞(さい)」という小さな城塞都市。
ここにたどり着いた李牧軍を、迎え撃つ者がいた――王・嬴政、その人だった。
政は、自ら甲冑を身にまとい、民を鼓舞する。
武器を持たぬ者に剣を、逃げ惑う者に意志を。
城の者たちは、王の背を見て戦うことを選び、民兵となって立ち上がる。
政の演説は、静かで、熱く、魂に訴える言葉だった。
「この国は、お前たちの国だ」
その言葉は、戦う理由を持たなかった人々の心に、確かな炎を灯す。
蕞の防衛線に合流した信と飛信隊、そして最後に現れたのは、山の民を率いる楊端和。
彼女の援軍が、李牧軍の包囲網を崩し、戦況を一気に逆転させていく。
こうして秦は、五カ国連合による未曾有の危機を跳ね返す。
軍略、知略、信念、そして“民の力”が結集したこの戦は、単なる合戦ではなく、
「国とは何か」「王とは誰のためにあるのか」を突きつける問いでもあった。
戦後、信は三千人将に昇格する。
かつては剣ひと振りで吠えていた下僕の少年が、今や一つの軍を率いる将になった。
そして、政もまた確信する。
自分の夢――「中華統一」は、ただの理想ではない。
それは、国の民と共に歩む現実の道であると。
この「合従軍編」は、戦としても物語としても“キングダムの心臓部”とも言える壮大な一章。
それぞれの登場人物が試され、未来へと踏み出す、決定的な戦いだった。