第四章：魔大陸での試練と帰還
突如として訪れた「転移事件」。
平穏な日常を切り裂くように光が溢れ、ルーデウスとエリスは一瞬で魔大陸の荒野に放り出されてしまう。見知らぬ大地、モンスターだらけの危険地帯、そして帰る術のない絶望。ここからが、ルーデウスにとって本当の意味での“異世界サバイバル”の幕開けだった。
まず彼らを襲ったのは、空腹と不安だった。食料もなく、方向もわからない。魔大陸は強大な魔物が跋扈し、人間にとっては生き地獄のような環境だ。そんな中で出会ったのが、後の仲間となる「死神」と恐れられるスぺルド族の戦士・ルイジェルドだった。彼はかつて人々に忌み嫌われ、恐怖と憎悪の象徴となっていた存在。しかし、彼の本質は誇り高き戦士であり、ルーデウスたちはその誤解を解き、共に旅をすることを選ぶ。
ルイジェルドとの旅は、ただの帰還の道のりではなかった。
それは、ルーデウス自身が「守る側」として成長していく試練の時間だった。これまでは天才的な魔法の力で子供ながらに周囲を驚かせてきた彼だが、魔大陸での生活はそんな力をも凌駕する現実を突きつける。モンスターは強力で、戦いにおいては小手先の魔術では命を守れない。ルイジェルドの剣技、エリスの闘志、そしてルーデウスの知恵――三者の力を合わせることでようやく生き延びることができたのだ。
また、この旅でルーデウスが学んだのは「人の目と噂の重さ」でもあった。スぺルド族は過去の因縁から忌避されていたが、ルーデウスは道中で“デッドエンド”という偽名を使いながら、少しずつ人々にルイジェルドの誤解を解いていく。危険と隣り合わせの冒険の中で、彼はただ生き残るためだけではなく、“誰かのために行動する”ことを覚えていった。
やがて、魔大陸から中央大陸へと渡る長い旅の中で、仲間との絆は強く結ばれていく。エリスは豪快な剣技を磨き、戦士としての自信をつける。ルイジェルドは次第に心を開き、戦士としての誇りを取り戻し始める。そしてルーデウスは、自らの狡猾さや知識を武器にして、戦闘だけでなく交渉や情報収集でも大きな役割を果たすようになった。
しかし、この旅は決して順風満帆ではなかった。途中で訪れる悲劇――出会った人々が次々と命を落としていく現実、そして大切なものを守れない自分への無力感。ルーデウスは幾度となく心を折られそうになりながらも、最後には必ず立ち上がる。かつて現実世界で何もできずに逃げ続けた男は、この異世界で“誰かのために立ち続ける勇気”を育てていったのだ。
長く険しい旅路を経て、ついに彼らはフィットア領の地へと帰還を果たす。だがそこで待っていたのは、帰るべき家や街が跡形もなく消え失せ、故郷の人々が散り散りになったという現実だった。再会を果たした父・パウロの憔悴しきった姿は、ルーデウスにとって大きな衝撃となる。かつては自堕落で頼りない父親だと思っていたパウロが、失われた家族を探して必死に奔走していたのだ。
涙と怒号が交錯する父子の再会。互いの弱さをぶつけ合いながらも、それは確かな“家族”の絆を取り戻す第一歩となった。
魔大陸での試練は、ルーデウスに生き抜く術を教えただけではない。
それは“逃げてきた男”が“戦う男”へと変わる転機であり、彼が異世界で真に生きる覚悟を持つための物語だった。
