なろう小説レビューvol.1「Unnamed Memory」

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―― 全ては書き換えられる、無数の、そして無名の物語だ。「俺の達成者としての望みは、お前がここを下りて俺の妻になること、でいこう」「受け付けられません!」魔法とそれを使う魔法士が当たり前のものとして存在する世界。大陸では、永い時を生き強大な力を操る五人の魔女が存在し、人々に畏れられていた。幼い時に魔女の一人によって、子が為せない呪詛をかけられた王太子オスカーは、20歳になった時、最強の魔女と呼ばれるティナーシャの元に解呪を願いに訪れる。それを切っ掛けに彼女を守護者として連れ帰ったオスカーは、契約が切れるまでの1年間、ティナーシャの過去に関わる因縁に、そしてもっと大きな運命に巻き込まれて行くこととなる。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883309510

「Unnamed Memory」──記憶に刻まれる、痛切な愛の物語

藤村由紀さん(古宮九時 名義)の傑作『Unnamed Memory』

「このライトノベルがすごい!2020」単行本・ノベルズ部門で堂々の1位。すでにご存じの方も多いかもしれませんね。

作者は、Web小説界では古宮九時さんの名でも知られる藤村由紀さん。本作は元々、個人サイトで公開されていた作品を「小説家になろう」に転載されたもので、そのクオリティはWeb発とは思えないほど圧倒的。

※2025年現在はカクヨムにて掲載中

しかも作者ご本人のサイトでは、本編のアフターSSや、主人公たちの“キャラアンケート”のような企画も公開されており、物語の世界をさらに深く味わうことができます。

では、読後に深い余韻を残す本作『Unnamed Memory』の魅力を、ネタバレを避けながら紹介していきましょう。


ポイント①:オスカーとティナーシャの日常に宿る「尊さ」

本作の主人公は、大国ファルサスの第一王子・オスカーと、伝説的な力を持つ“青き月の魔女”ティナーシャ。

ある目的のために出会った二人は、やがて同じ城で暮らすことになります。

王子であるオスカーは当然、自由に出歩ける立場ではありません。しかし彼は、束縛を当然と受け入れつつも、外の世界への好奇心を密かに抱いています。

そんな彼をティナーシャは軽々と引き連れて……なんてことはありません。

むしろ「勝手に出歩くな」とピシャリ(笑)。

けれど、そんなやり取りの中に、どこか微笑ましい信頼と距離感があり、ふたりの関係性がじわじわと深まっていく様子に、読者は自然と惹きこまれます。

だからこそ、この日常が「ただの穏やかな日々ではない」ことに気づいたとき――その尊さが、心に強く焼きつくのです。


ポイント②:セリフ一つで伝わるキャラクターの魅力

オスカーは王子らしく、堂々としていて聡明。

その話し方や言葉遣いからは、育ちの良さと揺るぎない自信がにじみ出ています。

対するティナーシャは、魔女としての威厳と長い年月を経た達観を感じさせるような、基本的に敬語の丁寧な口調。

けれど、冷たさはなく、むしろその中に優しさやあたたかさが滲んでいます。

距離を保ちつつも、確実に心を寄せている。そんな彼女の言葉の“間”や“にじみ”にこそ、本作ならではの心の機微が詰まっています。

時折もらすぼやきや愚痴のようなセリフも、物語にユーモアと人間味を添えており、読者の心を緩ませてくれるでしょう。


ポイント③:突然訪れる、物語の“転換”

この物語の構造上、詳細には触れられません。が、読んだ方は口を揃えて語ります。

「まさか、あんな展開になるなんて……」

そう、物語は中盤で大きく動き出します。それは突然で、けれど避けがたい。

オスカーの“選択”、ティナーシャの“願い”、そしてふたりの“絆”が試される瞬間。

その転換点こそが、この物語が単なるファンタジーロマンスでは終わらない理由なのです。


ポイント④:黒猫と魔女、その関係性の妙

黒猫と魔女――古くからの定番ペアにもかかわらず、ここまで見事に機能している作品はそう多くありません。

オスカーの傍らで喉を鳴らす黒猫の存在が、彼の孤独を埋め、読者に癒しを与えるというだけでなく、物語に必要不可欠な“空気”を醸し出しています。

犬派の人も油断しないでください。きっと、この黒猫に心を奪われるはず。


ポイント⑤:「名前を持たない記憶」とは何か

タイトルの“Unnamed Memory(名前を持たない記憶)”とは何を意味するのか。

最初は抽象的で掴みどころがないかもしれません。

でも、読み終えたとき、あなたはきっとその意味を――痛いほどに理解することになるでしょう。

この作品が記憶に残るのは、ただ面白かったからではありません。

忘れたくても忘れられない、深く突き刺さる何かがあるからなのです。


おわりに

いかがでしたでしょうか。

ある人にとっては、読後に喪失感すら覚えるような、心をかき乱す一作になるかもしれません。

でも、それこそが『Unnamed Memory』という物語の真骨頂。

ここまで読んでいただいた方の中には、すでに検索窓にタイトルを打ち込んだ方もいることでしょう。

このクオリティの物語が、Webで無料で読めるなんて……ほんとうに奇跡。

乾いた心をそっと満たしてくれる、けれど優しいだけじゃない。

読めばきっと、心の奥底にずっと残り続ける物語になるはずです。

ぜひあなたの“記憶”の一部に、『Unnamed Memory』を。

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この記事を書いた人

「小説家になろう」歴10年、これまでに読破した作品は200タイトル以上。少年漫画から青年漫画、ラブコメ、ギャグまで幅広く手を伸ばし、ジャンルの垣根なく楽しむ雑食系エンタメファン。毎月4本は映画館で鑑賞するほどの映画好きで、特にポケモンとワンピースへの愛は筋金入り。大人になっても心がワクワクする――そんなエンタメ作品を皆さんにお届けします。